工房はばたき/職業指導員
大野多喜さん
卒業は、スタート。笑顔で飛び発ってほしい。

手を動かす仕事が好きで、 陶芸の道で十年間の修行。

 私は和歌山県出身で、高校卒業後は京都伝統工芸専門学校で4年間陶芸を学び、卒業後は滋賀の信楽焼の陶芸家の先生のところへ弟子入りしました。工房は休みもない職人仕事でしたが、手を動かすことやものづくりは好きだったので、陶芸漬けの毎日を過ごしていました。工房で働いて10年経った頃にリーマンショックがあり、工房の仕事が激減したこともきっかけとなり、一旦陶芸の世界からは離れて地元へ戻ることに。地元では訪問介護を6年間、特別養護老人ホームで3ヶ月間働きました。
 「社会福祉法人 舟伏」で働くようになったきっかけは、施設長の森さんとの出会いでした。森さんは信楽焼の陶芸教室に来てくれていたときに知り合っていたんですが、縁あって2018年の夏にここで働き始めることになりました。
 現在私は、舟伏の「工房はばたき」に所属し、岐阜市にあるベーカリー「peu a peu」での就労移行支援の指導員として働いています。利用者さんはパン生地の仕込み、店頭での販売などを行っています。ここで焼いたパンは、店頭販売のほか、保育園や病院、喫茶店などへ納品する分もあり、朝から昼過ぎまでパンを焼き続けているような状態です。

土を練る陶芸工房から、 生地を練るパン工房へ。

 私自身、ずっと陶芸を続けてきたので土を練るのは得意ですが、パン生地を捏ねるのは初めてでした。ただ、peu a peuは大手パンメーカーの監修のもと、パン生地を仕入れて解凍し、店でアレンジをして焼くという手法なので、初心者でもマニュアルを覚えれば、安定して美味しいパンを焼くことができます。私もここへ来てすぐ、大手パンメーカーで1週間修業をしてから店に入りました。この方法であれば、経験が浅くてもある一定のクオリティのパンが焼けるので、こうしたマニュアルがあるのはありがたいですし、支援もしやすいです。
 ホームヘルパーをしていた頃は、時間に限りがあって、思ったように支援ができなくてもどかしさを感じていました。この仕事は利用者さんと接する時間が長く、しっかりと支援に集中できるので、自分にはこちらの方が合っていると感じています。

「一人の人間として」 特別扱いしない関わりかた。

 たとえば「これやっておいてね」と伝えても、相手によって捉え方はそれぞれ。「やればいいんだ」とストレートに捉える人もいれば、やっていなかった自分を責める人もいます。私は支援員として、一人ひとりと向き合いながら、相手にとってより良い方法で伝わるように、伝え方を模索しています。
 ただ、特別扱いはしたくないというのが私の考え方。どんなときも「一人の人として」関わるように心がけています。「できないからやってあげる」というのは簡単ですが、それでは卒業後に困ってしまうのは相手です。ここでは、その人がチャレンジできるような機会をうまく用意してあげたい。でも、極端にレベルの高いことを任せすぎると逆にストレスになってしまうので、相手と向き合い、理解しながら、見極めていきたいと思っています。
 そうしたときに、支援員である私自身が、しっかりと背中を見せなければ!という責任感もあります。「あの人は言うだけで何もやらない」では、相手に失望感を与えてしまいます。どんなことも自分が率先してやることで、良い見本となり、利用者さんとの信頼関係も築けていけたら理想です。

誰かと一緒に、喜びを 分かち合える毎日を。

 パンを焼くのはとても楽しいですし、もっとうまくなりたい!という気持ちも大きいです。パンは生き物です。毎日同じコンディションでも、ちょっと室温や湿度が違うと機嫌を損ねてしまったり、同じ条件下でも理想通りに焼けなかったりと、とても難しい仕事ですが、職人としてのやりがいや奥深さも感じています。さらにもっと美味しいパンを目指して研究したいですし、いつかは岐阜で一番美味しいパンを焼きたいと思っています。
 この仕事の醍醐味は、やはり利用者さんが笑顔で卒業してくれること。卒業後に同窓会のような形で会う機会もありますし、卒業後にパンを買いに遊びに来てくれることも多いので、立派に働いている姿や、凛々しくなった表情を見るととても嬉しいです。
 でも、卒業がゴールではありません。その先もずっと、その笑顔が、元気が続くような支援をするのが、我々の仕事だと思っています。その場しのぎの支援や指導ではなく、卒業後に生かせるような関わり方ができるよう、一歩先を見据えた支援がしていきたいと常々思っています。利用者さんの日々の成長も卒業も、その後の活躍を聞くことも、どれも喜びに溢れていて、そんな喜びをたくさんの人と分かち合えるのが、この仕事の醍醐味だと私は思っています。

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